ラバーダム(rubber dam)防湿[らばーだむぼうしつ]について
ラバーダム防湿法とは
ラバーダムとは、歯の根管治療などで使用する、歯に装着するゴムのシート状のマスクのようなものです。
そして、ラバーダム防湿法とは、ラバーダムを用いて患歯を唾液から隔離し、無菌的に防湿を行う治療法です。
ラバーダムは、根管治療の際に根管に細菌が入らないようにするために効果が高いとされています。 さらに、強力な消毒剤を使用しても口腔粘膜を損傷することが少ないという利点もあります。
実際にラバーダムを使用した場合としなかった場合では、根管治療の成功率は1.5倍以上違うとも言われています。
また、根管治療の際に粘膜を薬液から保護したり、リーマー、ファイルの誤飲、誤嚥の防止にも効果があります。
充填処置をする際にも活用されます。
ラバーダム防湿について
小児歯科におけるラバーダム防湿の重要性
小児は唾液分泌が多く、ラバーダム防湿は
- 小児の安全で快適な歯科治療のため
- 清潔な術野を維持するため
の双方の側面において必須であると考えられます。
ラバーダム防湿のメリット
ラバーダム防湿には、
- 唾液による汚染を防止することでき、無菌的処置が可能になる
- 術野の乾燥を保持することでき、薬剤や修復材などの状態が良いままで使用できる
- リーマー、ファイルの誤嚥や、切削器具による傷害などの事故を防ぐことができる
- 術野を明確にすることでき、処置を容易にすることができる
というメリットがあります。
ラバーダム防湿のデメリット
しかし、ラバーダム防湿には逆に、
- クランプの適合時に、歯肉に疼痛(ずきずきとうずくような痛み)を与えてしまうことがある
- 口呼吸の患者には適応できない
- ラテックスアレルギーのある患者には適応できない
というデメリットもあります。
ラバーダム防湿に際して必要となるもの(ラバーダム用具)
ラバーダム防湿に際しては、
- ラバーダムシート
- ラバーダムパンチ
- クランプ
- クランプフォーセップス
- デンタルフロス
- ヤングのフレーム
- ラバーダムクランプホルダー
を準備します。また、
- ラバーダム撤去用ばさみ
- ラバーダムテンプレート
- ラバーダムナプキン
なども使用されます。
ラバーダムシート(らばーだむしーと)
ラバーダム防湿に用いる薄いゴム状のシートです。
形は正方形であることが多く、厚さはさまざまです。
シートの色も黒や青など、さまざまなバリエーションがあります。
ラバーダムパンチ(らばーだむぱんち)
ラバーダムシートに穴をあけるための用具です。
ラバーダムシートパンチとも呼ばれます。
歯の大きさにあわせ、5~6種類の穴があけられるようになっています。
クランプ(くらんぷ)
ラバーダム装着時に、シートが歯から外れないように固定するための小器具です。
弾力のある金属でできており、リテーナー、リトラクターとも呼ばれます。
メーカーによって、大臼歯、小臼歯、前歯用などのさまざまな型があります。
歯肉圧排用、防湿綿花保持用などの特殊なものもあります。
クランプフォーセップス(くらんぷふぉーせっぷす)
口腔内にクランプを装着する際に用いる鉗子で、クランプ鉗子ともいいます。
クランプの保持孔にクランプフォーセップスの先端のくちばし部分を入れ、開閉することでクランプの脱着を行います。
デンタルフロス(でんたるふろす)
歯ブラシではとどかない歯間隣接面の清掃に用いる絹糸やナイロン糸のことです。
ワックスのついているタイプ(waxed floss)と、ワックスのついていないタイプ(waxed floss)があります。
ヤングのフレーム(やんぐのふれーむ)
ラバーシートを広げて保持するために使用する器具です。
考案者であるヤング(Young)の名前をとって名付けられました。
ラバーダムクランプホルダー(らばーだむくらんぷほるだー)
ラバーダムクランプを保持して歯に装着したり、着脱したりするときに使用する器具です。
いろいろな形態のホルダーがあります。
ラバーダム撤去用ばさみ(らばーだむてっきょようばさみ)
ラバーダムシートを撤去する際に使うはさみです。
連続結紮でラバーシートを装着した場合に、その部分のラバー及びデンタルフロスをはさみで切断し、撤去を容易にします。
ラバーダムテンプレート(らばーだむてんぷれーと)
ラバーダムシートに穴をあける際、どこに穴をあければよいのかわかりにくいことがあります。
このようなときにはあらかじめ穿孔部位を記入してあるラバーダムテンプレートを使用します。
テンプレートに従って穴をあけることで、どこに穴をあければよいかが正確にわかるようになります。
ラバーダムナプキン(らばーだむなぷきん)
ラバーダム防湿を行う際に、ラバーが直接口腔の周囲に接触することを嫌がる患者さんもいます。
また、ラバーによって皮膚が荒れてしまう患者さんもいます。
そういった場合には、ラバーと口腔周囲との間にラバーダムナプキンと呼ばれるペーパーを挟み込みます。
ラバーダム防湿の手順
ラバーダム防湿は、下記の手順で実施します。
- 局所麻酔をする
- クランプの試適をする
- フレームにラバーダムシートを装着する
- ラバーダムパンチでラバーダムシートの中央部に穴をあける
- ラバーダムシートにクランプを装着する
- クランプをクランプフォーセップスで挟み、患歯に装着する
- クランプのウイングからラバーを外し、完全に防湿する
ラバーダムの日本における使用状況
ラバーダムは日本以外の先進国では一般的に使われているものの、日本ではあまりラバーダムが使用されていないと言われています。
(アメリカでは90%近くの歯科医院が使用しているものの、日本では約5%~25%程度の歯科医院しか使っていないというデータもあるようです) その大きな理由としては、根管治療の保険点数が低いことがあげられます。
なお、平成20年の保険点数の改正で、ラバーダムそのもには保険点数がつかなくなりました。
(改正以前は10点=100円でした)
歯科医院としては、ラバーダムの効果についての考え方はともかく、経営的にラバーダムを積極的に使用しづらくなっているとの指摘もあります。
つまり、ラバーダムについての効果に対して否定的な考え方ではなかったとしても、ラバーダムはそれなりに手間もかかり、診療時間が長くなる傾向にあります。
診療効率が悪くなり、なおかつ手間もかかる上に保険点数がつかないとなると、なかなか利用できないのかもしれません。
また、日本の歯科大学でもラバーダムの装着についてはしっかり指導されますので、技術的に使えないという歯科医師は実はそれほど多くないとも言われます。
ラバーダム防湿のデメリット
ラバーダムの使用は、患者さんにとって
- 診療時間の長時間化
- 息苦しさ
- 不快感や痛み
などのデメリットも伴います。
患者さんにしっかりとメリットを伝えられないとトラブルやクレームになる可能性もゼロではないため、このことも日本の歯科医院がラバーダム使用をためらう理由のひとつとなっているかもしれません。
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