摂食機能・嚥下機能[せっしょくきのう・えんげきのう]について
摂食機能、嚥下機能とは
摂食機能とは食べ物をとらえ、食べるための機能。嚥下機能とは口に入れた食べ物をかみ砕き、飲み込む機能を指します。
小児期は摂食、そしてそれに続く嚥下の機能が確立していく時期です。
摂食機能、嚥下機能の獲得には臨界期(ある年齢や時期が過ぎると習得が困難になるという時期。また、刺激や経験の効果がもっともよく現れる時期という意味もあります。)があり、適切な時期に適切な過程を経験することなく時期が過ぎてしまうと、摂食異常や嚥下異常の原因となることがあります。
主には、①哺乳運動機能(吸う機能)、②咀嚼運動(かむ機能)、③嚥下運動(意識的に飲み込む機能)という順で機能を身につけていきます。
哺乳運動(吸啜運動)とは
哺乳運動とは、母乳やミルクを口で吸引する運動のことで、吸啜運動(きゅうてつ)、あるいは哺乳反射とも呼ばれます。
哺乳運動は不随意運動(意識とは関係なく起こる運動)であり、口唇探索反射、補足反射、吸啜反射などの原始反射(乳幼児が特定の刺激に反応して示す反射行動。一般的には前頭葉の発達にともない消失します。)と原始反射に含まれない嚥下反射とがあります。
原始反射の消失に伴い、離乳が開始されると言われています。
なお、嚥下反射は離乳開始後も続くため、原始反射には含まれません。
口唇探索反射
追いかけ反射とも呼ばれます。
口の周囲に母親の乳首などが触れると、その方向を追いかけるように顔の向きを変えます。
捕捉反射
口唇に母親の乳首などが触れると、上下の唇をまるくしてくわえようとします。
生まれたばかりの赤ちゃんの口唇の形状は、捕捉をしやすい形になっています。
吸啜反射
口腔に母親の乳首などが入ると、舌で包み込むようにして吸おうとします。
この反射による舌の動きによって連続した乳汁摂取がなされます。
嚥下反射
吸啜により口腔内に乳汁が流入すると、反射的に嚥下されます。
なお、ここでの嚥下は「乳児嚥下」と呼ばれる動きであり、下記のような特徴があります。
- 口を大きく開けたままにする
- 口腔内の奥まで乳首を引き込む
- 舌を前後に動かくことによって嚥下する
咀嚼運動とは
離乳期のはじまり
咀嚼運動とは、歯が生えてくるに伴って得られる、口腔内の食べ物をかみ砕く運動機能です。
生後約5か月で原始反射が消失し、離乳(母乳やミルクなどの乳汁から幼児食に移行する過程のこと)が始まります。
また、最近では断乳、卒乳などという言葉も使われています。
断乳は母親側から離乳を促すこと、卒乳は乳児側から離乳していくことというニュアンスで使われているようです。
離乳は、咀嚼機能の獲得、栄養の補給、味覚の形成などにおいて重要な過程だと言えます。
この過程のなかで、捕食、咀嚼、嚥下という一連の流れによる摂食、嚥下機能を獲得します。
離乳期の4期について
離乳期は、咀嚼機能の発達に合わせて、初期、中期、後期、完了期の4期に分けられます。
食べ物の硬さも
- 離乳初期(嚥下機能獲得期):ドロドロ状からベタベタ状の硬さ
- 離乳初期(捕食機能獲得期):とうふ状の硬さ
- 離乳中期(押しつぶし機能獲得期):バナナくらいの硬さ
- 離乳後期(すりつぶし機能獲得期):歯ぐきでつぶせる程度の硬さ
と機能の発達によって変化していきます。
離乳完了の目安は、1歳6か月程度であると言われています。
離乳期のおわり
手づかみ食べ機能を獲得する時期(1歳4か月から1歳5か月ごろ)になると、上下顎第一乳臼歯が萌出しはじめます。
乳臼歯が生え始めると、硬いものも少しずつ食べられるようになります。
手づかみ食べは、手、口、唇、舌、顎など一連の協調運動機能(諸種の別々の動作をひとつにまとめる運動機能)を発達させ、食べ物の硬さや大きさ、ひとくちの量などを認識する上で重要な行為です。
また、食器を使って食べる機能を獲得する時期(1歳6か月から1歳7か月ごろ)になると、乳犬歯が萌出し、乳歯の数が16本になります。
このころになると、スプーンなどを使ってある程度硬いものも食べられるようになります。
そして、通常、このころまでに離乳が完了します。
離乳完了後
第二乳臼歯が萌出し、乳歯列の完成する3歳ごろまでには、硬いものもかんで食べることができるようになります。
この時期に適切な離乳過程を経験しなかった幼児は、学童期になっても咀嚼能力が成熟せず、うまく食事がとれない場合があります。
ですので、この離乳期の口腔の成長にあわせた離乳食の与え方はとても重要です。
<参考>咀嚼機能の発達
月齢 | 離乳の時期 | 獲得機能 | 運動機能 | 咀嚼能力 | 食べ物の硬さ |
---|---|---|---|---|---|
0~5か月 | 哺乳期 | ― | ・哺乳反射 ・舌の前後運動 | ・咬合型吸啜 ・液体を飲める | 液体 |
5か月~6か月 | 離乳初期 | 嚥下機能獲得期 捕食機能獲得期 | ・口唇を閉じて飲み込む ・舌の前後運動に顎の 連動運動 | ・ドロドロのものを 飲み込める | ドロドロ状 |
7か月~8か月 | 離乳中期 | 押しつぶし機能 獲得期 | ・口唇をしっかり閉じた ままでの顎の上下運動 ・舌の上下運動 | ・数回もぐもぐして舌で 押しつぶし咀嚼する | 舌でつぶせる硬さ |
9か月~11か月 | 離乳後期 | すりつぶし機能 獲得期 | ・口唇をしっかり閉じた ままでの咀嚼運動 ・舌の左右運動 ・顎の左右運動 | ・歯ぐきで咀嚼する | 歯ぐきでつぶせる硬さ |
満1~3歳 | 離乳完了期 | 手づかみ機能獲得期 食器食べ機能獲得期 | ・咀嚼運動の完成 | ・歯が生えるに従い 咀嚼運動が完成する | 歯でかみつぶせる くらいの硬さ |
嚥下運動
嚥下の3相
嚥下運動とは口に入れた食べ物をかみ砕き、飲み込み、胃まで送る機能の運動を指します。
食べ物を食べる際には、食べようと思う(認知期)、食べ物を手に取る(準備期)、口に入れる(摂食)、かみ砕く(咀嚼、口腔期)、飲み込む(嚥下、咽頭期・食道期)という5つの工程に分けることができ、このうち口に入れるところから歯でかみ砕き、飲み込むまでの過程を嚥下の3相と呼びます。
第1相である口腔期(食べ物を口に入れてからかみ砕き、飲み込もうとするまで)での運動は随意運動(自分の意識の下で行う運動)であり、食べ物が咽頭部を通過する第2相(咽頭期)、食道に至る第3相(食道期)は不随意運動(無意識に行われる運動、反射運動)となります。
嚥下パターンの変化
乳歯がまだ生えていない乳児期においては、乳児型嚥下と呼ばれる、成人とは異なる嚥下パターンを示します。
乳児型嚥下では、授乳時においても舌は上下顎の歯槽堤の間(顎間空隙)にあり、下顎の運動も、顔の筋肉である表情筋と上下顎の間にある舌の動きによって決められます。
概ね1歳を過ぎるころに乳児型嚥下は消失し、成熟型嚥下へと移ります。
しかし、指しゃぶりや口呼吸などの口腔習癖などによって、上下顎間に大きな空隙が発生してしまうと、口腔内を陰圧にしようとして上下顎間に舌を挿入させ、乳児型嚥下が残ってしまう場合があります。
これは異常嚥下癖のひとうであり、不正咬合の原因となることもありますので、注意が必要です。
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